眠田直のこんなモノが欲しい!(52)

MSXの思い出



 あの頃、パソコンには今よりすっと夢があったように思う。私が初めてパソコンを買ったのは今からちょうど14年前。機種はMSX2、松下のA1Fというマシンだった。当時ファミコンゲームにハマってた私は、いい加減4コマ漫画の仕事に飽きていた事もあって「自分でもゲームを作ってみたい!」という欲求がピークに達してしたのだ。

 そんな折、書店で見かけたMSX雑誌に「アドベンチャーツクール」という「これでアドベンチャーゲームが簡単に作れる!」というソフトの紹介記事を見かけて「これだっ!」と直感し、翌日には池袋の量販店に直行しA1Fを購入したのだった。定価5万4千8百円。当時PC98などの他のパソコンが二〜三十万していたのに比べると、MSXはあくまで低価格のホビー機。悪く言えばオモチャだったのだが、その分衝動買いできる気安さもあったのだ。
 しかも「ゲームが簡単に作れる」の記事は決してウソじゃなかった。MSXにはこれ以外にもシューティングが作れる「吉田工務店」や、RPGの「ダンジョン万次郎」といった名作ツールが目白押しだったし、何よりMSXーBASIC自体が、画像の呼び出しやスプライトが扱いやすく、本当にユーザーのゲーム製作意欲を刺激してくれるキカイだったね。ついでにモデムやワープロもFM音源もカートリッジになってて、これをポンって差し込むだけでOKって気軽さは、今のPCの拡張スロット開けてボード差し込んで、ドライバをインストールして設定して、っていう面倒な手順よりずっと洗練されてたよなぁ。

 まぁそんなワケでMSXで遊んでいた事が、後にゲーム製作のお仕事に繋がったワケで、私にとっては人生の転機となったパソコンでもあるのだな。

 思えばMSXこそが真の意味での「パーソナル」なコンピューターだったように思う。わずか64Kのメモリ。2DDのフロッピーディスク。256×212ドット、16色のグラフィック。
 でもね、この位の規模っていうのが、プログラムも絵も音楽もまだ「個人の力でなんとかなる」範囲だったんだよ。この後CD−ROMの時代に入ると、どうしても集団の力でないとコンテンツが作れなくなってしまう…。

 今、この原稿を書いているウインドウスマシンは、CPUもHDDの容量もCDドライブも、A1Fとは比較にならないくらい高スペックなマシンなワケだけど、14年前のようなワクワク感は全然無いんだよ。今後もCPUとネット回線はどんどんスピードアップしていくんだろうけど、あの頃のMSXの持っていた楽しさは永遠に失われたような気がするのだ。

 というわけで今回の「こんなモノ欲しい」は、状態の良いMSXターボR/A1GTを安価で譲って下さ…、じゃなかった。もう一度、昔みたいに私をワクワクさせてくれるパソコンが欲しいんです。無いモノねだりってわかってはいるんだけど。

 え、新型のiMac? …違うってば。


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