ユートニウム博士の意外なモデル

 パワーパフの作者クレイグ・マクラッケンの言によれば、ユートニウム博士のモデルとなったのは『“ボブ”ドブス』だそうである。
 …と、言われても大多数の日本人には何の事だかわからないと思うので、ここで“ボブ”ドブスと『亜天才教会(The Church of the SubGenius) 』について解説しておこう。

 事の起こりは1980年。教団創始者アイヴァン・スタングは、古い電話帳広告に「ハンサムでパイプをくわえた男」のイラストが頻繁に登場する事を発見した。(特定の会社の商標では無く、豊かな感じを与える汎用カットとして、色々な宣伝に使われていた)
 スタングはこのパイプ男に、全能なる異星人の神「JHVH-1」の使者“ボブ”ドブスという設定を付け加えた。“ボブ”は1950年代に活躍した、世界で最も偉大なスーパーセールスマン。今もパイプをくわえたおなじみの姿で、世界中のあらゆる場所に出現しているのだ。近年ではなんとヴァイキング探査機が、火星の地表でパイプをふかす“ボブ”の姿を撮影している!

 そしてこの“ボブ”を崇め奉り、その教義『スラック』(だら〜んとした感じ)を世に広めるために活動しているのが「亜天才教会」なのである。そのスローガンは“スラックが満ちればあなたは変わる!”だ。なお“ボブ”は本来指し示す事のできない至高の存在なので、表記する場合は必ずこのようにクォーテーションマークでくくらなければならない。

 もちろん、これは日本で言うところのオウム真理教みたいな、狂信的な新興宗教団体をからかったパロディ活動。つまりジョークでやっているワケなのだが、そこは冗談好きなアメリカ人のこと、亜天才教会はなんと6000人の会員を集め、ラジオ番組を持ち、何冊もの著書も出版されているのだ。(もちろん書店では「ユーモア本」のコーナーに置かれている)
 なお、亜天才教会は入会金1ドルで誰でも信者になれ、30ドル寄付すると「聖職者」の位も与えられる。めっちゃ安直(笑)。

 さてカルト宗教には付き物の終末予言だが、亜天才教会の教義によれば、1998年7月5日午前7時に全人類は滅亡する、と予言されていた。もちろん教会に帰依した者だけは、UFOに乗ってやってくるセックスの女神によって救われるのだ!
 そんなわけで98年夏には教会の活動も大盛り上がり。信者による集会が各地で開催され、模擬武器を使った「アルマゲドンごっこ」やら「集団結婚式(ただしカップル一組で牧師が百人の)」とかが行われたそうである。
 もちろん7月5日に世界は滅亡しなかったので、現在の教義では「終末の日」は8661年に改定されている。(単に1998年をひっくり返しただけ…)

 この大馬鹿(誉め言葉)なパロディ宗教と、そんなトコからキャラを発想したクレイグ氏。アメリカ人のジョークってのは、本当に大掛かりで手が込んでるねぇ〜。

*「亜天才教会」に関しては植木不等式氏にご教授いただきました。多謝。

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