いしい作品メインタイトル紹介

(文責 高森圭 2000年)


          過去15年ほど、主だった作品を追いかけているのですが、活動歴が
          数十年年に渡る作家だけにまだまだ個人的に謎がいっぱいです。
          
          ここでは氏の主要作品ガイドを書いてみました         
       

       「がんばれ!タブチくん」

        (双葉社より単行本8冊。チェックした本は初版より一年で85刷・・)
         田淵や広岡といった野球選手たちのあまりのディティール描写の正確さに、
         スパイ説さえ疑われたという(笑)作者初の大ヒット作。
         フォロワー本も雨後筍のごとく発生したとか。
        

       「となりのやまだ君」

         (チャンネルゼロより単行本6冊。徳間書店より全集3冊)
         いしいひさいちが朝日新聞に連載することは、ひとつの事件だった(そうな)。
         主人公のごく普通の中学生、のぼると祖母と父母と妹と犬のポチの平凡な生活。
         確かに他作品より毒が薄いが、毎朝毎朝、大新聞で氏の作品が読めることは
         その広範囲への浸透力を思うと、ファンに何よりの幸せかも。
 

       「ののちゃん」

         (チャンネルゼロより単行本7巻まで刊行中、その他絵本なども)
         となりの山田君をひきついで、妹の小学三年生、ののちゃんが主役に。
         少しキャラ設定が変化している。

         関西の家庭を想定しているようだが、ちなみに氏が自作品の笑いや言葉のルーツに
         大阪は関係していないと発言しているように、他地方の人には分かりにくいが、
        「関西人」のタイプは県や地域によって差異が大きく、一概にひとくくりにはできない。

         タブチくんへとつながった阪神ネタや、バイトくんの大阪ライフは、
         岡山出身の氏の際だった観察力と構成力によって生み出されたものなの
         かもしれない。
         
         また新聞4コマで多分初めて在日朝鮮人の同級生が登場したり、サブキャラクターが
         作中で死んだりとひそかに細やかな実験が試みられているらしい。

       「バイトくん」

         (現在入手可能なのはチャンネルゼロ「バイトくんブックス」。1〜7巻まで刊行中)        
         貧乏大学生、バイトくんとその周囲のさえないキャンバスライフ。
         永遠なる何一つ起こらぬ青春。氏のライフワークにして4コマ漫画の金字塔。
         週刊漫画アクションなどで今も描き続けられている。

       「ノンキャリアウーマン」

         (双葉社より単行本二冊、その文庫版2冊、「新ノンキャリアウーマン」1冊)
         万年お茶くみOL三宅さんの怠惰なOLライフ。
         最近は時代を反映してか、リストラネタ、老人問題ネタが多い。
 

       「忍者無芸帖」

        (チャンネルゼロより単行本2冊。文芸春秋社より1冊、文庫版2冊。最近の新版の単行本一冊)
         隠れみの、分身の術など基本的には白土三平の忍者漫画のパロディ。
         オール讀物に連載されていた最近のバージョンには藤原先生も奥方役で登場。

       「B型平次」

         (竹書房より単行本1冊。その文庫版が双葉社より1冊)
         銭形平次のパロディ。「行くぜハチ!」「がってんだ!」「おまえさん!」
         これだけのシチェイションでどれだけのバリエーションを派生できうるか 。
         現在でもその試みは思い出したように続けられている。
         (何故だか中東、ベトナムなど海外紛争に引っかけたネタに傑作多し。)
 

       「鏡の国の戦争」 

        (潮出版社より単行本2冊。その文庫版1冊)
         タイトルはジョン・ル・カレの同題作品より。スパイネタ、冷戦ネタ、突撃ネタ、
         塹壕ネタ、トーチカネタ、反戦ネタなど。戦争ものミステリー、映画のパロディ。
         (そういえばご本人、メル・ブルックスファンだとか)文庫版の最後の1本は必見。
       

       「コミカルミステリーツアー」

         (東京創元社より文庫1〜3巻まで刊行中)
         ミステリファンとしても有名ないしいひさいちの、名探偵ホームズなど
         古今東西の推理小説のパロディが楽しめる。あまり指摘されないが、
         実在人物に限らず、既存のフィクションのキャラの、巧みなディフォルメに
         よる個性付けも毎回見事だ。

         珍しいところでは筒井康隆作品への漫画家たちのコラボレーション作品を集めた
        「筒井漫画讀本」に「富豪刑事」の4コマ作品を描いている。
        (「B型平次」と顔は変わらないが)
         このシリーズの浸透か、最近とみに文庫フェアにいしいキャラが
         用いられていて、ファンとしては嬉しい。
 

       「わたしはネコである」

         (講談社より単行本1冊。その文庫版1冊。続編「わたしはネコである殺人事件」単行本一冊)
         売れない私小説家広岡先生が引っ越してきた貸家にはお手伝いさんが
         ついていた。何故か野球選手にそっくりな小説家たちと編集の安田。
         鎌倉における私生活ネタ、締め切りネタなどが多い。

       

       「女には向かない職業」

         (東京創元社より単行本2冊)
         最初はミス・イージーというタイトルでバツイチの設定だった藤原先生。
         単行本化で「ののちゃん」のネタと合わせて世界観を統一された。
         現在の氏の作品は女性キャラの描き方ひとつとっても、他の新聞4コマ漫画家
         たちとは懸絶している。また、それは時代の変化でもあるのだろう。      
       
         その2は高校時代、大学時代、教員、作家時代のさまざまな藤原先生の行状が。
          小さい頃アルゼンチンにいたという事実や地元がチツコウ(竹港)小学校と
          やはりののちゃんの舞台は作者の故郷岡山県玉野市が意識されている模様。 

       「問題外論」

         (チャンネルゼロより全17巻)
         主に週刊文春、週刊現代、夕刊フジ連載からの時事ネタセレクション。
         政治・経済・スポーツ・芸能などなど。
         
         現代「おいおい」は政治・芸能・スポーツネタが多い。一時期4コマ目で
         「ブチ」っと切れるオチを多用していて、少しレベルを落とし気味。

         文春「のんき大国」はその時期時期に起こった重要事件、スキャンダルを
         シリーズ化してしばらく続ける事が多い。事件がないと連載の切れたB型平次や
         ナベツネ社長ものをやりだすなど、最も好き勝手度が高い連載かもしれない。
         本誌にはごくまれに氏のコラム文章などが掲載されるときもある。
   
         (夕刊フジ「問題外論」はノーチェックでした・・・) 

          → 2001・1・19 2000年秋ごろから総タイトル「いしい商店」に
            シフト、掲載形式など微妙に変化しています。       

       「大問題〜」

         (東京創元社より文庫で「大問題96」「〜97」「〜98」「〜99」が刊行中)
         その一年ごとの事件・カルチャーを「問題外論」よりのセレクションと
         峯正澄氏のコラムで読み説く一冊。いしい入門としてもお薦め。
       

       「経済外論」

         (朝日新聞社より単行本3冊。そのセレクション&追補の文庫版1冊)
         朝日新聞のコラムとして描かれたものや、経済ネタを集めたシリーズ。
         不動産・土地高騰・貿易摩擦など80年代末〜90年代初頭のバブル史としても
         読める。傑作は小学校の授業に擬した米問題ネタ。
 

       「大政界」

         (チャンネルゼロ社より単行本2冊)
         実在政治家キャラによる虚実皮膜の世界。何と言っても強烈なのは「生き腐れ」
        「風見鳥」と称される中曽根元首相。これも80年代政治史(ただしとってもディフォルメされた)
         として読める。      

       「いしいひさいちのCNN」

         (文芸春秋社より単行本1冊)
         今は亡き文芸春秋の「マルコポーロ」連載の海外政治ネタ。
         連載時期のため、湾岸戦争、フセインネタが多い。ここから、
         フリチントンとヒラリー夫人シリーズが生み出されたのかもしれない。
         中国の江沢民主席ネタなど、政治ネタは読み続けているとネタの連続性が分かって楽しい。          

       「地底人」

         (双葉社より単行本1冊。ほぼ再録のその文庫版は「地底人の逆襲」)
         我々の知らぬ間に地底では、地上人征服をもくろむ地底人達がいた。
         これまた徹底したルーティンと堂々巡りを繰り返す怪作。一部で
         有名な「最低人」は是非容易に手に入るようになった文庫版に当たって頂きたい。

         併録は氏には珍しくゴジラなどの特撮パロディの、これまた繰り返しギャグ
         「探し屋ケンちゃん」など。これらはSFというよりは30年代の貸本・
         雑誌漫画群へのオマージュととるのが正解かもしれない。 
 

       「ほんの一冊」

         (朝日新聞社より単行本1冊)
         朝日新聞の書評小冊子「一冊の本」の4コマ連載と、文芸春秋で氏の連載されていた読書日記を
         再構成し、おなじみ田淵、広岡、藤原らの小説家が評するという体裁をとった書評がメイン。
         座談会、著者略歴などのお遊びが嬉しい。文芸春秋連載時かなり表に出ていた作者地の部分を
         こうした形にシフトしてしまうところがいかにもらしい。  

        「思想家漂流記」 

         哲学ネタの書き下ろし作品とするべき目下準備中だとか。  



       
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