「アルソアの花」


○タイトル
はるか「スターピンキーQ、CDスペシャルドラマ・アルソアの花」

○丘の上
   放課後の学校の音(チャイム、運動部の練習の音、下校する生徒たちのざわめき等)が遠くから聞こえてくる。
はるか(モノローグ/以下M)「……ここは私の学校の裏手にある丘の上。私は、そこに一本の紫色の花を植えた」
はるか「どう? ここならいつでもみんなを見る事ができるから、寂しくないよね…」
はるか(M)「そう語りかけると、まるで私の言葉にうなずくかのように、紫の花は少し風にそよいだ。そして、あたりは心地良い香りで満たされた」
はるか「(その香りを胸いっぱいに吸い込み)……ああ、いい気持ち」
   (少し間)
はるか「ねぇ、おぼえてる? あの日の放課後、音楽室で会った時の事…」
はるか(M)「…そう、あれはちょうど半年前」
   ここから回想シーンに入る。

○回想・放課後の学校・図書室
はるか(M)「その日、私は琴菜と図書室にいた」
琴菜「あった! 『エリーザベト・ニーチェ』 これ、前から気になってたのよね」
はるか「琴菜ぁ、これでもう5冊目だよ」
琴菜「だって、明日からゴールデンウィークでしょ? 当分、図書室に来れないし…。だから、今日の内に目いっぱい借りておこうと思って」
琴菜「えーーっと、後はどうしようかな? ブルンヴァンの新刊は入ってないかしら?」
はるか「あーー、こりゃまだまだ時間がかかりそうね」
   はるか、椅子に座る。
はるか「ま、いいか。別に急ぐ用事があるじゃなし」
   窓の外から聞こえてくる、運動部の練習の音。
はるか「…うーーん、平和よねぇ。さいわい、ここんとこオルドビス軍の攻撃も無いし、このまま普通の女の子に戻れると嬉しいんだけどなー」
   …と、窓の外の音に混じって、どこからかかすかにピアノの音が聞こえて来る。
   独特の哀愁を帯びた曲。
はるか「ふーーん、なんだかいい感じ…。誰が弾いてんのかなぁ」
   はるか、立ち上がり、
はるか「琴菜、まだここにいるよね?」
琴菜「うん。ゴメンはるかちゃん、もう少し…」
   はるか、図書室の扉を開け、廊下に出る。

○廊下
はるか「こっちね」
   ピアノの音、しだいに大きくなる。
はるか(M)「私はその不思議な曲に導かれるように、音楽室に入っていった」

○音楽室
はるか(M)「音楽室の中では、一人の男子生徒が一心不乱にピアノを弾いていた。その顔には見覚えがあった。それはクラスメイトの三上将(みかみたすく)君だった」
はるか(M)「三上君は体が弱いらしく、学校も休みがちだったし、無口でおとなしく、クラスの中でも目立たない存在だった」
はるか(M)「私も、それまで彼の事を意識した事は無かった。でも、彼の弾く曲はなぜか私の心をとらえた」
   三上、曲を弾き終える。
   はるか、パチパチを拍手する。
はるか「いやーー、お見事! つい聞き惚れちゃったわ」
三上「…あ、星野さん」
はるか「ふぅん、三上君にこんな才能があったなんて知らなかったなぁ」
三上「いや、大した事無いよ。自己流で、遊びで弾いてるだけだし…」
はるか「でも、今の曲すごく良かったよ。…クラシック、じゃないよね? なんかどこかの民族音楽みたいだったけど」
三上「…う、うん。まぁそんなとこかな」
   はるか、横からピアノの鍵盤を叩きはじめる。
はるか「こうだっけ? ドドシラソソ…」
   (ここの部分、実際の曲が出来てからセリフ合わせて下さい。)
三上「…星野さんと話せるなんて嬉しいな」
はるか「え? ああ、そう言えば、三上君とちゃんと話しするのって初めてだっけ。同じクラスなのにね」
三上「いや、ほら僕、学校休む事多いから…」
はるか「あ、そうか。なんか気管支の病気だとか聞いてたけど。でも、もう大丈夫なんでしょう?」
三上「…うん、まぁ一応ね」
はるか「(曲を覚えるのに熱中して)…ミソラファド」
三上「星野さんて、いつも楽しそうだね」
はるか「えっ、そうかな? うーーん、そうかもしれない。学校好きだもん。友達と遊んだり、お弁当食べたり…。あ、数学の授業は別ね」
   二人、笑う。
三上「いつも明るくて、楽しそうな星野さんを見てると、なんだか僕も元気が涌いてくるような気がするな」
はるか「そうそう、元気出して! 病は気からって言うじゃない?」
はるか「ソソラファ…、あれ、違うな」
   SE:ドアの開く音
琴菜「はるかちゃん、ここだったの」
はるか「あ、琴菜」
琴菜「待たせてゴメンね。さ、帰りましょ」
はるか「うん、オッケー」
はるか「あ、そうだ三上君。今度またさっきの曲聞かせてくれない?」
三上「うん、いいよ」
はるか「じゃ、まったねーー!」

○市街地
   SE:メガモンスの鳴き声
はるか「ピンキー・クラッシュ!」
   SE:爆発音
はるか(M)「まったくロクでも無いゴールデンウィークだった。せっかくの連休だってのに、三日連チャンでメガモンスが現れたのだ。私を付け狙う、オルドビス軍のしつこさにはほとほと参った」
はるか「…はぁ、さすがに疲れたぁ」

○学校・音楽室
はるか(M)「そんなワケで、連休明けの私はちょっとイラついていた。そんな私の心を癒してくれたのは、三上くんの弾くあの曲だった」
はるか「三上君、今日も君のピアノ、聞かせてね」
三上「うん…」
   三上の曲、流れる。
はるか(M)「そして私は黙って彼のピアノを聞いた。二人の間に言葉は無かったけど、三上君の弾く曲からは、なんだか彼の心が伝わってくるような気がした。…彼の優しさと、そして孤独」
   三上の曲、F・O

○同・昼休み
   SE:チャイムの音。
   場面変わって、昼休みの学校。
はるか(M)「三上君は相変わらず教室では目立たない存在だった。いや、彼自身が常に目立たないように、控えめにしようと心がけているようだった」
はるか「そーれぃ!」
   校庭でバレーボールをするはるか達。(生徒たちの声やボールの音)
はるか(M)「かと言って、彼が人嫌いというわけではないらしい」
はるか「あ…」
はるか(M)「振り向くと、三上君と目が合った。優しい目だった。彼は私を含め、クラスの、いや学校のみんなを、いつでも静かに、そしてあたかかく見守っているようだった」

○同・放課後
   SE:チャイムの音
琴菜「はるかちゃん、一緒に帰ろうよ」
はるか「ゴメン、琴菜。ちょっと用事あるから、先に帰って」
琴菜「ねぇはるかちゃん、最近、放課後になるとすぐにいなくなるけど、どこ行ってるの?」
はるか「へへっ、ないーしょ」

○同・音楽室
はるか(M)「いつの間にか、私は放課後は音楽室に寄り、三上君のピアノを聞くのが日課になっていた。だが、そんなある日の事…」
   ピアノの曲、急に途切れる。
   三上、バタッと倒れる。
はるか「三上君! どうしたの?」
三上「……う、大丈夫、ただの貧血さ。今朝、ちょっと冷えこんだせいかな」
はるか「ね、保健室行く?」
三上「いや、心配いらないよ。大した事無いから…」
三上「星野さん、…悪いけど、今日はもう帰るね」
   SE:ドアの音
はるか(M)「そう言って三上君は出ていった。彼は大丈夫と言っていたが、私はその時なんだか悪い予感がした」

○はるかの家
はるか(M)「家に帰ってからも、漠然とした不安感は消えなかった」
はるか「三上君、明日学校に来るかなぁ?」
   はるか、無意識の内に三上の曲を口ずさむ。
タルト「あれ? その曲どっかで聞いた事あるなぁ」
はるか「え?」
タルト「どこで聞いたのかなぁ。そうだ! ポルタ星の宇宙酒場よ!」
はるか「えーーっ、そんな事無いでしょ。これは私のクラスメイトから教わったのよ」
タルト「ううん、確かに宇宙で聞いた曲よ。地球のじゃないもん」
はるか「まっさかぁ」
マリオン「私の電子頭脳で検索してみましょう。キャプテン、もう一度今の曲を唄ってもらえますか?」
はるか「う、うん」
   はるか、もう一度口ずさむ。
   SE:電子頭脳検索音
マリオン「今のメロディの検索結果が出ました」
マリオン「曲名『二重太陽のたそがれ』、プラント恒星系・惑星アルソア12の曲です」
はるか「えええーーーっ、本当?」
マリオン「間違いありません」
はるか「なんで三上君が、そんな曲知ってるの?」

○学校
はるか(M)「…翌日、私はその事を三上君に尋ねようと思ったが、彼は欠席していた。その日は一日中、彼の事が気になってしかたがなかった」
   SE:チャイムの音
はるか(M)「放課後、私は名簿で三上君の住所を確認し、思い切ってそこを訪ねてみる事にした」

○路上
はるか「ええっと、五丁目十一番地っていうと、この辺のはず…」
タルト「おねーさまぁ!」
はるか「あれっ。あなたたち、どうしてここに?」
マリオン「昨日、キャプテンのおっしゃられたクラスメイトの話が、どうも気になりまして…」
はるか「そう…。いいわ、一緒に行きましょ」

○三上の家
はるか(M)「三上君の家は、町外れにある古びた洋館だった。庭には雑草が生い茂り、人の住んでいる気配がまるで無かった」
タルト「本当にここなんですかぁ?」
はるか「うーーん。でも十一番地にはこれ一軒しか無いよねぇ」
   SE:ピピピピピピピピピ(反応音)
はるか「どうしたの、マリオン?」
マリオン「キャプテン! 地下から、微弱ですがエネルギー反応が感じられます。この反応は地球の物ではありません」
はるか「えっ?」
タルト「ひょっとして、オルドビス軍のスパイじゃない?」
マリオン「詳しく調べてみる必要がありますね」
はるか(M)「そう言うとマリオンは、庭の雑草をかき分け、赤錆びた鉄製の蓋を見つけ出した」
   SE:ズズズズ(マンホールの蓋をずらす音)
マリオン「見て下さい、ここから地下に降りる事が出来ます」

○同
   SE:三人が階段を降りて行く音
タルト「ああっ!」
マリオン「見て下さい、あれを!」
はるか(M)「私たちが地下室で見た物。…それは、一台の宇宙ロケットであった」
マリオン「珍しい型のロケットですね。このタイプはおそらく…」
三上「見てしまったんだね」
はるか「三上君」
はるか(M)「振り向くと、そこに三上君が立っていた」
三上「仕方無いな。…でも、いいか。星野さんになら本当の事を話しても」
三上「驚かないでね、僕は地球人じゃない。アルソア12という惑星からやって来た宇宙人なんだ」
タルト「やっぱり!」
はるか「どうして、地球に来たの?」
マリオン「キャプテン、惑星アルソア12は二重太陽の爆発により滅亡しました。おそらく、彼は…」
三上「?? よく知ってるね。その通り、惑星アルソア12から運良く脱出した僕は、かろうじて、この惑星『地球』にたどりつく事が出来た。…そう、この星の時間で今から十年前の事だ」
三上「それから、ずっと地球人のフリをしながら、静かに暮らして来た。宇宙人とはバレないよう、ひっそりと…」
三上「でもね、ずっと一人でいると、人恋しくなる事も多くてね。だから、書類をちょっと細工して、学校に通う事にした。そこで出会ったのが、星野さん。君だったというわけさ」
三上「でも、失敗したな。まさか君にここを見られるとは…」
はるか「大丈夫、秘密は守るわ。だって私だって地球人じゃないもの」
三上「えっ?」
はるか「私の正体はピンキー星人、スターピンキーQなの」
マリオン「キャプテン?」
タルト「あれ、いいの、おねーさまぁ? それは秘密にしとくんじゃなかったっけ」
はるか「いいのよタルトP。この人になら教えても」
タルト「じゃ、はじめましてアルソア12星人さん。私はピノイ星出身のタルトP。スターピンキーQの可愛いパートナーよ」
マリオン「私はアンドロイドのマリオンR。スターピンキーQの活動を補佐するのが私の役目です」
三上「そうか、やっぱり星野さんがスターピンキーQだったのか。なんとなく、そんな気はしてたけど…」
はるか「ねぇ、三上君。私たち、なんだか似てるわね。私の星もとっくの昔に無くなっちゃったって言うし」
三上「うん…」
はるか(M)「三上君は、滅亡した惑星の生き残り。ひとりぼっちの異星人。そう、私と同じ…。そう思うと、しだいに私の中で彼に対する気持ちが高まった」
はるか(M)「…私は、思い切って彼に告白しようとした」
はるか「ねぇ三上君、できればこれからも私と…」
三上「ゴホッゴホッ(激しく咳込む)」
はるか「三上君!」
三上「ごめんね、星野さん。ずっと友達でいたかったけど、もう体がもたない…」
はるか「えっ?」
三上「今日まで我慢してきたけど、もう限界だ。僕の体は弱っている…。この星の環境じゃ、アルソア12星人は長くは生きられない。空気…の、…成分がち…がうし…」
はるか「そんな!」
三上「…悲しま…ないで。…また、また会えるか…ら…」
   SE:バタッ!(三上、倒れる)
はるか「三上君! 三上君!」
   SE:三上の殻が裂ける音
はるか「ああっ!」
はるか(M)「突然、三上君の背中が裂けた。そして、私は彼の実体を見た」
はるか「草だ…。草が殻を被ってたのね」
マリオン「アルソア人は、植物だったんですね」
はるか「三上君!」
   SE:パラパラ…(何かがこぼれ落ちる音)
タルト「おねえさま、これ…」
はるか(M)「それは三上君の、いやアルソア12星人の種だった…」
   回想シーン終わる。

○丘の上
   再び丘の上。
はるか(M)「私はアルソア12星人の種を蒔いた。そして三上君は、地球上で生きていける姿へと変化した。一本の、紫色の花に…」
はるか(M)「もう、彼と話す事は出来ない。それでも私は、アルソアの花に向かって話しかける。きっと、三上君には聞こえているはずだ…」
はるか「ねぇ、三上君。あの曲、練習したんだよ。聞いてね」
   ハーモニカで思い出の曲を吹くはるか。
   もの哀しく流れるメロディー。しだいにフェードアウトしてEND。


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