眠田直のコレにハマった(7)

鷹と虎



 鷹と虎の話をしようか。

 俺たちの応援するプロ野球チームは、正直弱かった。かつては名門と呼ばれた時代もあったそうだが、俺たちが物心ついた頃には、万年Bクラスで、最下位に落ちる事も珍しくなかった。
 東に「常勝軍団」と呼ばれるライバルチームがいた。奴らは憎たらしい程に強かった。俺たちの応援するチームのホームグラウンドに余裕しゃくしゃくでやってきて、たやすく勝利をもぎとっていった。
 奴らのファンからは、いつも弱小球団と馬鹿にされた。
 悔しかった。
 いつかあいつらを見返してやりたかった。

 ある年、俺たちの応援するチームに新しい監督が就任した。その人は別のチームの大スターだった人だ。
 俺たちはなんだか複雑な心境になった。
「どうせすぐ元のチームに帰るんだろ?」と陰口を叩いたりした。
 でもその人は、本気だった。万年Bクラスのチームを強くするために、一生懸命やってくれた。俺たちはしだいに、考えを改めた。
 FAやトレードで、チームの顔ぶれが変わった。生え抜きの選手が何人かいなくなり、また俺たちは複雑な心境になった。
 …でもそれは、チームを活性化させるのに必要なことだったんだと、後になって気付いた。俺たちの応援するチームは、見事に生まれ変わった。
 本当に強くなった。
 ついにあの憎いライバルチームを叩きのめして優勝した。
 俺たちは喜んだ。そして泣いた。

 そして日本シリーズが始まった。
 豪打あり、見事なピッチングがあり、息づまる終盤の攻防あり、「野球の夢」のような7日間だった。最終的には4勝3敗で鷹が日本一の栄冠を手にしたが、精一杯戦った虎を称える者も多かった。
 だから俺たちは2003年のあの7日間を忘れない。絶対に忘れない。

 それから2年の月日が流れた。虎は「名将」と呼ばれたあの監督が辞任し、その後をチーム生え抜きの新しい監督が引き継いだ。
 鷹は親会社が変わり、チーム名が「ソフトバンク」へと変わった。
 何人かの選手がFAや大リーグに流出し替わりに新しい外国人選手がやってきた。 虎はFKJと呼ばれるリリーフ陣が勝利の方程式を作り出し、鷹は王道野球を推し進め、89勝という驚異的な数字でシーズンを終えた。

 そしてまた日本シリーズの季節がやってくる。鷹と虎。福岡ソフトバンクホークスと阪神タイガース。今回もまた熱気渦巻く甲子園で、興奮の坩堝と化したヤフードームで、最高の「野球の夢」が見られるに違いない。

 俺たちは最高に幸せだ。


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